アイヌ語鵡川方言は胆振地方の東端を流れる鵡川流域の旧鵡川町近辺の方言を指し、すぐ東は沙流川流域で話される沙流方言地域になっている。鵡川の上流域には旧穂別町(現むかわ町)が位置し、そこの言葉は穂別方言と呼ばれている。鵡川方言は、これらも含めた日高西部方言のひとつと考えられている。
鵡川方言については、田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』(1996、草風館)の中でも2名の話者からの情報が記録されており、昭和63(1988)年度の『アイヌ民俗文化財調査報告書』(北海道教育委員会)において、文化的な情報とともに多数の単語・短文が記録されている。またSTVラジオの「アイヌ語ラジオ講座」において、2000年度10~12月期、2002年度10~3月期に講師・片山弘子氏、協力者・新井田セイノ氏(2002年度には協力者として佐藤知己氏も)で、鵡川方言の講座が放送され、2012年度には吉村冬子氏の孫に当たる押野朱美・里架姉妹を講師として1年間講座が開かれている(支援研究者:佐藤知己氏)。また、2007年には、ブガエワ・アンナが「アイヌ語鵡川方言テキスト・新井田セイノさんの神謡」を津曲敏郎(編)『環北太平洋の言語 第14号』(北海道大学)に掲載している。
このように言語資料の記録はある程度採録・公表されてきてはいるが、今のところまだ、隣接する沙流方言や穂別方言などとの異同について体系的に整理されているわけではなく、本格的な文法書や語彙集が編まれたこともない。今回公表する片山龍峯氏の採録資料によって、その点が大きく進展することが期待できる。
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